プロフィール 岐阜県出身。先代である父が創業し、2005年に(有)大恵として法人化、2代目を引き継ぐ。社寺仏閣の建築で用いられる伝統的な技法「木造軸組工法」で地域から絶大な信用を獲得し、口コミだけで予約は1年先まで埋まっている。自社によるこだわり木材の購入で材料費を20~30%削減し、顧客への費用に還元。「300年住宅」を掲げる木材住宅一筋の事業を通じ、地域貢献を実践している。

床柱には格式を高めるべく無垢の特別品を、化粧柱には美しく節のない柱を使う。高品質な建築にこだわる有限会社大恵(たいけい)は、木材購入もバイヤーを通さず自社で行い、伝統工法により納得のいく家づくりを追求している。代表取締役・安藤栄剛氏は、「匠の国・岐阜県伝統建築家」にも認定された先代である父のもとで修業し、若い頃は幾度となく心が折れかけた経験があるという。その苦難を乗り越えた、今の境地に迫る。

伝統工法である木造軸組工法での家づくり

インタビュアー 畑山隆則(元ボクシング世界王者)
インタビュアー 畑山隆則(元ボクシング世界王者)

畑山 岐阜県多治見市を拠点に、木造注文住宅の施工を手がけている、大恵さん。現代の家づくりはキットを組み立てるようなスタイルが主流である一方、昔ながらの大工仕事で建築に向き合っているとうかがいました。

 

安藤 はい。「大工が造る伝統建築の家」をキャッチフレーズに、伝統工法である木造軸組工法に重きを置いた建築を展開しています。

 

畑山 今時の建築事情からすると貴重な事業展開だと思います。対応エリアについても教えてください。

 

安藤 お客様からのご紹介による仕事がほとんどですので、多治見市を中心に美濃加茂市や可児市等、30㎞県内なります。

畑山 信頼の地域密着型ですね! 依頼は新築の戸建てが多いのですか?

 

安藤 新築のご依頼もありますし、時代の流れからリフォーム案件も多くなっています。弊社の強みは、お客様の多様なご要望に応じてどんな依頼にも対応できる知識と技術です!

 

畑山 先ほど工場を見学させていただきました。住宅に限らず、建具や家具もつくられているんですよね。大工道具で何でもできる本物の大工、プロフェッショナルな一流の匠という印象を受けました。

先代は「匠の国・岐阜県伝統建築家」認定者

畑山 それでは、あらためて大恵さんのこれまでの歩みを教えてください。

 

安藤 弊社は現会長であり、私の父である安藤桂次がスタートさせた会社です。先代は中学卒業後に名古屋で大工修行を行い、ここ地元の多治見市に戻り、開業した流れになります。

 

畑山 時代を考えると、丁稚奉公のような印象を受けます。まさに大工道一筋といった気概を感じますね。

安藤 その通りだと思います。実際に先代は2000年、「匠の国・岐阜県伝統建築家」にも認定された、数少ない伝統建築を継承している大工職人の一人なんです。

 

畑山 それは素晴らしい! 代替わりはいつ頃に?

 

安藤 2014年です。2005年に会社を法人化してから私が社長となり、父が会長に就任しました。

 

畑山 会社を法人化させることで組織力も強固になったのでしょう。スタッフは何名くらいですか?

 

安藤 コロナ禍の影響もあって、今は少なくなりましたね。少数精鋭のスタイルで運営していまして、私と父、それから修業6年目スタッフの3人体制です。

 

畑山 6年目で修業中なんですか!

安藤 大工は生涯修業と言われる職業でもあります。伝統的な工法だと、一人前まで最低10年は見てもらわないとですね(笑)。

 

畑山 思っていたよりも長い道のりです。安藤社長と先代は、大工職人の父子鷹の関係性ですよね。一緒に働いてみていかがですか?

 

安藤 大変です。何度も心は折れかけました(笑)。例えば、今はありませんが駆け出しの頃の床板を張っていく作業では、少しでも傷が入れば全部を剝がして最初からやり直しになったものです(笑)。

 

畑山 研磨による修正ではないのですね! そういった安藤会長の職人としてのプライドとスタイルがあるからこそ、お客さんからの紹介が絶えないのだと思います。

 

安藤 ありがとうございます。父の功績は大きいですよ。木造住宅一筋、高い技術力を武器にこれまでやってきました。今後もこれまで同様に、お客様の納得いく満足度の高い住宅建築を提供していけるよう尽力していきます。

木材購入からこだわる300年住宅

畑山 では、先代から引き継いできた伝統工法について、ぜひ詳しく教えてください。

 

安藤 先代が追求してきた「木造軸組工法」は、主に社寺仏閣で用いられている技術であり、在来工法の中で最も長持ちするものです。法隆寺や犬山城、東大寺の大仏殿などが代表的な建物でして、300年以上持つと言われている伝統建築構法です。工程として、まずはバイヤーを通さずに直接目利きした木材の購入から始めます。

畑山 一般的な戸建て建築だと50年持てば十分という固定観念があったので、300年とは驚きです! また、よくあるカット済の木材を購入するのでなく、自社で選別しているんですね。

 

安藤 ええ、家の骨組みとなる木材にこだわるからこそ、技術との相乗効果で長持ちするんです。水回りの床は、湿気やシロアリに強いヒバを使い、柱、梁は岐阜県産を使い、風土に合った木材で、耐久性を第一考えます。和室の天井板は断熱・調湿効果がある杉の無垢材を使用する、といった具合です。

畑山 まったく知りませんでした。目から鱗が落ちるお話ばかりですよ! 木材購入に中間業者がいないとなると、お安く買えるのでしょうか。

 

安藤 ええ。20~30%くらいは安くなりますので、お客様の建築費に還元しています。

 

畑山 地域の個人業者では不安だからと、名が知れている大手ハウスメーカーに建築を依頼する人は多いと思います。しかし、安藤社長のお話を聞いていると意識が変わりますね。

安藤 そもそも天然木の家は高価と勘違いされている点も困っているんです・・・。

 

畑山 ハウスメーカーの年間広告費や住宅展示場にかかっている凄まじい金額は、施主さんが負担しているんですよね。大恵さんのような会社では、そういった経費負担が軽減されて設主さんは値打ちになるわけだ。そのほかのメリットやこだわりも知りたいです。

 

安藤 根太(ねだ)有り釘無し工法です。これは床などをつくる際に使う工法です。根太という受け材を組むことで剥離やたわみを防ぐ効果があり、後々修繕しやすいんです。一般的な新築の床は、大引き三尺間に剛床(ベニヤ)を敷くため、真ん中が垂れるので、ベニヤが剥離します。化粧材はシートを貼っているだけです。一見木のようですが子供やペットの犬猫でも剥がせるので、時間経過とともに無垢材、根太有り工法との差が明白になっていきます。

社会貢献度の高いボランティア活動も検討

畑山 今後の展望はどのように考えていますか?

 

安藤 弊社は、地域のお客様からのご紹介による仕事でこれまでやってきました。今後も何一つ変わることなく、親から子の世代へ継承していくような住まいを、職人のプライドを持って取り組んでいきます。

 

畑山 宣伝もしないのに仕事が絶え間なく入ってくるのは、これまでの仕事が高品質だからこそ、そして値段に関しても顧客が納得しているからこそだと思うんです。安藤会長の時代から積み重ねてきた信頼が、今の経営状況につながっていて素晴らしいですね。

安藤 ありがとうございます。加えて、人財育成にも力を入れていきたいです。先ほどご紹介した30代のスタッフは、毎日頑張って働いてくれています。父と私が培ってきた知識と技術はまだまだありますので、しっかりと継承してもらえるように指導していきますよ。リフォームなどは施工が進むにつれ施主様の要望も変わってくるので、技術力と経験がないと対応できないんです。どんなご依頼にも応えられる大工になってくれることを期待しています。

 

畑山 伝統的な工法ゆえの希少価値があるので、絶やさずに次にバトンをつないでいってほしいです。会社の規模を大きくしたいとか、そういったお考えはありますか?

安藤 あまりないですね(笑)。10年後には60歳になるので、その頃には引退を考えているんです。大工経験を活かしたボランティア活動を考えています。

 

畑山 それは社会貢献度の高い志ですね。きっかけは何でしょう?

 

安藤 これまでのお問い合わせで、障がいのある子を持つシングルマザーや年金生活の方など、多様な方々からご相談がありました。しかし金銭的な問題から、リフォームを断念されるお客様もいまして・・・。梁が落ちそうなど家が危険な状態なのに修繕できない、そんな状況を何とかできればと。将来的には材料費だけいただいて人件費は無償のボランティアで地域に恩返しできれば、幸福度の高い人生になる気がしているんです。

 

畑山 とても素敵なお考えです。伝統工法は日本の文化であり、職人さんこそ守るべきかけがえのない存在だと感じました。国はこういった分野も支援してほしいですし、安藤社長のような方は社会でもっと知れ渡ってほしいです。木材なども地産地消で地域に還元されるでしょうから、消費者はもっとしっかりとした知識や見識を持って家を建てるべきですよね。安藤社長のこれからの社会貢献、私も応援していますよ!

 

木材にもこだわり長持ちする住まいを

木造注文住宅の施工を手がけている有限会社大恵では、伝統工法である「木造軸組工法」を用いた建築を展開。主に社寺仏閣で用いられている技術であり、在来工法の中で最も長持ちするそうで、300年以上持つと言われています。木材購入もバイヤーを通さず自社で行っているという同社。木材にこだわるからこそ、技術との相乗効果で建物がより長持ちします。300年住宅を実現できるのは、伝統工法だからこそ成せる技と言えるでしょう。